前回の記事「ジェット燃料って何?今話題のSAFとは?航空燃料について解説します!」で書いていましたが、長編になりすぎてしまったので後編ということで、記事を分けてしまいました。
今回は燃料タンクの話ということで、普段航空機になじみが無い方にもイメージしてもらいやすいように参考画像やイラスト多めでお届けします。(重かったらごめんなさい…)
では早速本題です。
燃料は機体のどこに積まれているの?
航空機が飛ぶために必要不可欠な燃料、いったいどこに搭載されているのでしょうか。
飛行機とヘリコプター、それぞれの燃料タンクの場所とその位置にある理由を解説します。
飛行機は翼の中にタンクがある
ボーイング777では181,280リットル、大型タンクローリー10台分もの燃料を搭載することができます。
その燃料タンクがあるのは主翼の中、図の位置です。
ここまではご存じの方も多いのではないでしょうか。
ではなぜ主翼の中に燃料タンクがあるか、その理由はご存じですか?
それはズバリ「主翼や主翼の付け根にかかる負担を減らすため」です。
飛行中の機体にかかる荷重を考えたときに、飛ぶための揚力を発生するのは翼部分だけです。
機体の胴体が重くて逆に主翼が軽いと、揚力によって翼が大きく反り返ってしまい、変形量が大きすぎて機体構造に負荷がかかってしまいます。
そんなアンバランスを解消するために、重量の一部を主翼に移そうという考え方をしました。
その結果、飛行中に主翼で大きな揚力を発生させても、燃料の重量と打ち消し合って主翼のたわみは少なくなっていいあんばいで飛ぶことができるというわけです。
ヘリコプターは客室の後ろにタンクがある
ヘリコプターには飛行機の主翼に当たる部分はありません。
では燃料タンクはどこにあるのでしょう。
メーカーや機種によって多少違いはありますが、客室から見て隔壁を挟んで下方か後方にあります。
その理由は、「機体の重心位置になるべく近い位置にするため」です。
ヘリコプターはとても不安定な乗り物なので重心位置から離れた位置に重量物があると、姿勢変化させたときにたちまち制御不能に陥ってしまいます。
また燃料を消費していったときになるべく重心位置の変化が少ない方が望ましいのです。
ヘリコプターの重心位置はメインローターの回転軸直下付近にくるように設計するため、燃料タンクもおのずとその近くに配置する必要があります。
飛行機もヘリコプターもそれぞれ理由があって燃料タンクの位置がきまっているんですね。
燃料はどうやって給油するの?
燃料タンクの位置が分かったら、次はどうやって給油するのか気になりませんか?
これも大型機である旅客機とヘリコプターに分けて解説していこうと思います。
旅客機はサービサーを使って圧送する
飛行機でも小型飛行機では翼の上側にある給油口を開いて、タンクローリーからガソリンスタンドと同じようなノズルを使って直接燃料タンクへ給油します。こんな感じのイメージです↓
一方大型旅客機では長い距離を飛ぶため、一回で給油する量もかなりの量になります。
そのため翼上から給油していては時間ばかりかかってしまい効率的ではありません。
またタンクローリーから給油しようと思うと10台以上のタンクローリーが必要になるので空港のハイドラントシステムと呼ばれる設備を使用します。
ワンポイント
ハイドラントシステムとは
空港で使用される膨大な量の航空燃料を、安全に効率よく航空機に給油するために世界の大空港では大きな燃料タンクを持っており、そこから駐機場の地下まで配管が張り巡らされています。
タンクに貯蔵された燃料はポンプによって各配管まで圧送されていて、そのまま給油ホースを使って航空機に燃料補給できるようになっています。
これをハイドラントシステムと言います。
海のすぐそばにある空港では航空燃料を運んできたタンカーから直接燃料タンクへ移送できるシステムとなっていて、輸送コスト低減の工夫もされています。
ちなみに成田空港は内陸部にある空港ですが、千葉港の石油ターミナルから空港まで47kmものパイプラインでつながっているんですよ。
写真のような車が着陸した飛行機に近づいていくのを見たことがありますか?
サービサーといいますが、この車からホースを伸ばして空港側のハイドラントシステムの出口配管と、もう片方を主翼の下側にある給油口につなぎます。
ハイドラントシステムの配管から出た燃料がサービサーの燃料フィルターや流量計を通って旅客機に給油されます。
ハイドラントシステムを使えば1分間に2,500リットルもの燃料を給油することができるんです。
ヘリコプターはタンクに直接注ぐ
かなり規模の大きい話をしてしまいましたが、ヘリコプターにおいては圧送タイプを採用している機体は大型機のごく一部で、ほとんどは車やバイクと同じように、給油口からタンクへ直接注ぎます。
先ほどの小型飛行機と同じタイプですね。
ヘリコプターの燃料タンクは単発の小型タービン機で500~600リットル程度、日本の民間機最大のエアバス H225でも2,600リットル程度なのでノズルでちょろちょろでも十分対応可能というわけです。
とはいっても燃料補給のためのホースは見た目以上に重いですし、意外と重労働。
1分でも早く燃料補給を終えたいというのが本音です。笑
ワンポイント
燃料量の表し方
普段、液体の量を表すときに皆さんはどんな単位を使いますか?
飲み物の量ならml(ミリリットル)、マンションとかビルにある大きな貯水槽ならm3(立法メートル)など、「体積」で表すのではないでしょうか。
一方ジェット燃料は体積ではなく、重量で表します。
これは体積で表すと温度によって量が変化してしまうからです。
またエンジンの出力は燃料の質量で決まるため、重量で管理しています。
まとめ
今回は飛行機とヘリコプターについてそれぞれの燃料タンクがある場所と、そこに無くてはならない理由、それから給油方法について解説しました。
ヘリコプター整備士の僕としてはハイドラントシステム、かっこいいなぁー。うらやましいなーと見ています。
空港に行かれた際はこの記事を思い出してもらって、給油風景とか翼のたわみとか見てもらえたらより一層楽しんでもらえるんじゃないかと思います。