今回は航空燃料とはどんなものなのか。どんな種類があるのかといった内容を中心に最近急激に話題に上ることが多くなったSAFについても解説します。
整備士を目指す方向けの、もう少しマニアックな内容はこちらの「航空機燃料について JET A-1, JET Bの違い、析出点について説明できますか?」を参照してください。
でもそちらではSAFについては言及していませんので、この記事を読んで予備知識として持っておいてくださいね。
では本題に入ります。
航空燃料の種類はどんなものがある?
航空燃料は大きく分けて2種類があります。
ガソリン
ガソリン!?と思われるかもしれませんが、そうなんです、ガソリンで飛ぶ飛行機やヘリコプターもあるんです。
車と同じ仕組みのピストンエンジンには航空ガソリンが使用されます。
ただ車のガソリンとは少しだけ違っていて、Aviation Gasoline略してAVGAS(アブガス)と呼ばれます。
最も一般的に販売・使用されている航空ガソリンは100LLというもので、オクタン価が100で「Low Lead:少しだけ鉛が含有されている」燃料です。
日本で販売されているレギュラーガソリンのオクタン価は89、ハイオクは96と定められているので、さらにオクタン価が高いガソリンとなりますね。
ワンポイント
オクタン価とは
異常燃焼(ノッキング)のしにくさを表す尺度で、数字が大きいほどノッキングを起こしにくくなる。
言い換えれば発火のしにくさともいえる。
燃料を高い圧力で圧縮する高出力エンジンを搭載する車がハイオク指定なのはこのためで、オクタン価が低い燃料を使用してしまうと圧縮によって意図しないタイミングで発火してしまい、ノッキングの原因になる。
鉛を添加する理由としては二つあります。
- アンチノック性能を高めて高圧縮に耐えられる燃料にする
- 潤滑性の向上
アンチノック性能については上で説明した通りで、航空機に搭載されるピストンエンジンも高圧縮エンジンのため、車のレギュラーガソリンのような低オクタン価の燃料を入れてしまうと異常燃焼でノッキングを起こしてしまいます。
潤滑性に関しては吸排気バルブ周りの潤滑を行い、摩耗を防ぐ目的があります。
ジェット燃料
旅客機やビジネスジェット、ドクターヘリ、防災ヘリなど、ほとんどの航空機はタービンエンジンを搭載しています。
タービンエンジンの燃料にはジェット燃料を使います。
ジェット燃料とは、重油を蒸留する過程で得られるケロシンのことで、ストーブに使用される「灯油」に近いというか、ほぼ同じ成分です。
次の図を見てください
灯油もジェット燃料も同じ170~250℃で分留される灯油留分に含まれることが分かります。
では灯油とジェット燃料は全く同じなのでしょうか。
もちろん厳密にいえば違うものです。
灯油留分から水分や硫黄成分など不純物を取り除き、所定の添加物を加えて定められた諸元を満たすものだけが「ジェット燃料」として販売や航空機に使用することができるものになります。
ワンポイント
析出点
ジェット燃料の重要な指標として「析出点」というものがあります。
これは簡単に言うと燃料が凍り出す温度のことで、一定の基準を満たせなければジェット燃料として認められません。
高高度を飛ぶ航空機は燃料が凍ってしまったら重大な事故に繋がってしまいますからね。
SAF(Sustainable aviation fuel)とは何?
SAFとは
SAFとは、Sustainable aviation fuel の略で日本語では「持続可能な航空燃料」となります。
昨今の世界的なCO2削減やSDGsの取組みの中で、航空業界は矢面に立たされています。
これまで航空機メーカーが低燃費の機体を開発というのがCO2削減のための主な取組みでしたが、それに加えて運航中に排出するCO2も削減しようという取組みの筆頭がこのSAFとなります。
日本においては環境省が「2030年の航空燃料使用量の10%をSAFに置き換える」という目標を打ち出しており、各航空会社は本格導入に向けて調整を行っています。
SAFの原料は?
SAFは様々なものから作り出すことが出来ます。
- 使用済みの食用油
- 微細な藻類
- 家庭から排出される有機ゴミ
- 木質バイオマス
- 糖や紙ごみ
- メタノールやエタノールなどのアルコール類
SAFの製造方法は?
原料によって製造方法は異なります。
例えば木質バイオマスや紙ごみなどは原料を蒸し焼きにすることでガスを発生させます。
そのガスの分子を化学的に結合させることで液体燃料になります。
他には食用油などの廃油を高温高圧の水素を使用して分解することでジェット燃料に改質する方法などもあるようです。
現在国際規格によって認められている製造方法は7種類あって、製造方法によって従来の航空燃料に混合できる割合も定められています。
ですがまだまだコスト面や原料の調達などの課題は多く、確立した方法は無いのが現状で、複数の製造方法を組み合わせないとSAFの安定供給にはつながらないというのが現状のようです。
SAFって安全なの?
乗客として一番気になるのはその安全性ですよね。
いくら環境に優しいとはいっても飛行中にエンジンが止まったり爆発したりする燃料を使用した飛行機には誰も乗りたくないと思います。
その点においては従来の燃料と変わらないだろうと言われています。
だろう…
なんとも不安にさせる言い方ですね。
まぁまだまだ出てきて日が浅い燃料ですから、各社実証実験を通じて安全性を確認しているところです。
ただ現時点で言えることは、製造されたSAFの燃料としての性状は従来の燃料と同等であることが国際規格によって定められています。
そのため安全だろうという事は言えるということですね。
ちなみにユナイテッド航空が2021年の12月にボーイング737において、片方のエンジンに供給する燃料をSAF100%とした商業運航を完了させています。
今後SAFメーカーや機体メーカー、エンジンメーカーで運航データの解析等によって安全性が確認されていくものと思われます。
まとめ
航空燃料には大きく分けて2種類あるというのをそれぞれの特徴や成分を解説してきました。
車と同じエンジンであるピストンエンジンの航空機には航空ガソリンを。
ターボファンエンジン、ターボジェットエンジン、ターボシャフトエンジンなどのタービンエンジンにはジェット燃料を使用するということで、皆さんが乗る旅客機は灯油に近い燃料が使われています。
空港に行った際はぜひ展望デッキに出て、匂いを嗅いでみてほしいと思います。
灯油ストーブのようないい匂い(笑)がすると思います。
本当は燃料タンクや給油方法の雑学等も書きたかったのですが、長くなりすぎたので分けさせてもらいました!
後半記事はこちらの「飛行機やヘリの燃料タンクの位置とその理由!給油方法や豆知識も交えて紹介します。」をご覧ください。
写真やイラスト多めでイメージしやすいように書きました^^
それから旅客機などに使われるジェット燃料についてもう少し詳しく知りたい、整備士の実施試験合格を目指す方は
「航空機燃料について JET A-1, JET Bの違い、析出点について説明できますか?」も読んでみてくださいね。