今回はタービンエンジンの航空機に使用する、ジェット燃料について解説します。
現実的にはJET A-1以外使用することはありませんが、実地試験を受験する上では他の燃料との違いや特徴、運用時の注意点まで抑えるようにしましょう。
ジェット燃料の要件
まずジェット燃料に求められる要件については以下のようなものがあります。
発熱量が大きいこと
燃料の発熱量とエンジン性能の関係として、タービンエンジンの出力は発熱量に比例するという前提があります。
発熱量が大きいということは重量当たりの燃料でたくさんの仕事をすることができますので、より長時間の飛行ができる。あるいは大きい出力が出せるという事になります。
燃料の発熱量が航続距離にも直結するということですね。
ワンポイント
発熱量とは
発熱量とは、単位量の燃料が完全燃焼したときに発生する熱量と定義されますが、その中でも燃料中に含まれる水分が水蒸気になる際の潜熱を考慮するかどうかで高位発熱量と低位発熱量の2種類の発熱量があります。
通常は水分が水蒸気になる際の損失を除外した「定位発熱量」が使用されます。
ここは参考程度で良いですが、そんな種類があるんだな程度に覚えておけば大丈夫です。
適当な揮発性があること
燃料の揮発性は蒸発損失や低温始動性、燃焼性を左右します。
揮発性が高すぎるとべーパー・ロックの原因になり、逆に低すぎると低温時の着火特性や高空での再着火性が悪化してしまうため、適度な揮発性が求められます。
ワンポイント
ベーパー・ロックとは
燃料の揮発性が高すぎると配管内やポンプ部で蒸発した蒸気が滞留し、燃料の供給を阻害してしまう現象。
性状が安定していること
保管中に分解・重合による変質をしない、粘度の変化を生じないとういう化学的な安定性、
また燃料は航空機に給油されてから燃焼室に噴霧されるまで、様々な熱的な影響を受けます。
その熱で変質しない、分解生成物を生じないなど熱的な安定性も求められます。
燃焼性がよいこと
燃焼性が良いとは燃焼の継続性が良く、燃焼した際にばい煙の発生が少ないことを言います。
連続燃焼であるタービンエンジンは着火した後は燃料と燃焼用の空気を供給するだけで燃焼を継続させる必要があります。
またばい煙が少なければならない理由は環境性能はもちろんのこと、ばい煙やすすが発生すると燃焼室内にすすが堆積してしまい、能力低下を引き起こしてしまいます。
それだけではなく燃焼室以降の流路やタービンにも悪い影響を与えますし、エキゾーストパイプ周囲の外板を汚すことによる美観の低下も招きます。
ワンんポイント
燃焼性の良し悪しを図る指標や試験方法も定められていますが、そこまでは覚える必要はないでしょう。
凍結しにくいこと
凍結しにくく、低温でも性状が変わらない事。
それは高高度を飛ぶ航空機において必須の要件と言えます。
ここでいう性状とは粘度や着火性、潤滑性のことですが、特に低温時の粘度はフィルタでの閉塞とか燃料噴射時のパターンが正確に出るかというエンジンの性能に直結しますので、析出点と併せて低温粘度が規定されています。
また燃料中に含まれる水分量も低温下では問題になり、低温下では氷結してフィルタを閉塞させることがあります。
ワンポイント
析出点とは
析出点とは航空燃料の凍結のしにくさを表す尺度。英語ではFreezing Pointと呼ばれる。
簡単にいうと温度が下がっていき、燃料が結晶化する温度です。
ですが厳密には次のように定義されています。
「燃料の温度を下げていき、結晶化させる。その後徐々に温めていき、結晶が完全に消えたときの温度」
金属に対する腐食性が低いこと
燃料に含まれる硫黄分や水分、酸価の度合いによって腐食性が左右されます。
燃料タンクをはじめ配管、ノズルは燃料が常時満たされており、燃料に腐食性があると当然良くないですよね。
また燃焼後の硫黄酸化物も金属を腐食させる大きな要因です。こちらは主にタービン翼に悪影響をもたらすことが分かっています。
硫黄は炭化水素にはつきもので、完全に除去することは出来ませんが燃料の規格によってその含有量の上限が定められています。
JET A-1の特徴
JET A-1とはケロシン系のジェット燃料で、最も広く一般的に使用されている航空燃料。
ケロシン系燃料とは?
ケロシンとは重油を蒸留して得られる成分の一つで、いわゆる灯油です。
灯油とケロシン系航空燃料の違いは、ケロシンの純度や水分の含有率、不純物についての基準が厳しく定められており、いくつかの規程の添加材が添加されているものがケロシン系航空燃料となります。
基準が厳しかったり、管理に手間がかかるため、灯油よりも高コストな燃料と言えますね。
ケロシンはガソリンに比べて揮発性が低くて引火点が高いという特徴があります。
最も一般的に使用されているのがJET A-1で、ほぼ同じ規格ですがJET Aというものもありますので覚えておきましょう。
JET A-1とJET Aの違いは?
上でJET A-1とJET Aはほぼ同じと書きましたが、では何が違うのでしょうか。
その答えは「析出点」です。
析出点は上で説明していますので、思い出せない方は少し戻って復習しましょう!
JET A-1の析出点が-47℃であるのに対してJET Aは-40℃です。
JP 5とJP 8も同じケロシン系燃料
JPというのは軍用規格で、JP5とJP8はどちらもJET A-1と同じケロシン系燃料です。
それらの違いは何でしょうか。
ずばり、JP5とJP8の違いは引火点の違いです。
なぜ引火点の違う燃料をつくる必要があったかという理由については、それぞれの燃料がどこで使われているかを知れば納得がいくと思います。
実はJP5はJP8より引火点が高く、海軍で使用されています。
一方JP8は陸軍や空軍で使用される燃料です。
海軍は航空機を船に乗せる必要があることから、少しでも火災に対するリスクを減らしたいという理由で引火点の燃料を使用しているんですね。
JET Bの特徴
JET Bとは、ワイドカット系のジェット燃料で軍用機や一部の寒冷地で使用されている航空燃料。
析出点は-60℃
ワイドカット系燃料とは?
ナフサ系ジェット燃料とも呼ばれ、その名の通りナフサ(ガソリン)が多く含まれた低蒸気圧ガソリン系燃料のことをいいます。
その割合はケロシン30%、ナフサ70%で、ほとんどがナフサなんですね。
低温・高空における着火性が良いという特徴があります。
析出点が低く、低温特性に優れる反面、引火点も低いため取扱いが難しいという面もあります。
JET BとJP 4の違いは?
ワイドカット系燃料にはJET Bの他にJP 4という規格のものがあります。
たまにネット上では軍用規格と民間規格の違いで、実質同じものという記載を見かけたりしますが、厳密には別物です。
JP 4には凍結防止剤が初めから添加されているのです。
自衛隊でもJET A-1の仕様が増えているとはいえ、まだJP 4の使用もありますので、覚えておきましょう。
まとめ
簡単に振り返ってみましょう。
まずタービン用燃料にはケロシン系とワイドカット系がありましたね。
ケロシン系の特徴は揮発性が低く、引火点が高いのが特徴でした。
そのため扱いやすく、航空機の飛行規程でも通常燃料として指定される燃料です。
一方ワイドカット系燃料はケロシン留分とナフサ留分が混合された燃料でしたね。
そのため低温や高高度における再着火性が良いため、極寒冷地や軍用として使用されています。
JET A-1が通常燃料として規定される航空機でワイドカット系燃料を使用する際は、外気温や飛行高度に制限が設定されるのが一般的です。
実地試験においても燃料系統は必ず!聞かれるチャプターですので基本を押さえるとともに、+αの知識を持っておくようにしましょう!